2018/07/18

第二回英語教育小論文コンテストの奨励賞発表


 先日お知らせしましたように7/22(日)に予定していた広島大学英語教育学会は開催を延期しましたが、第二回英語教育小論文コンテスト(「10代・20代が考える英語テストのあり方」)の発表はこのブログを通じて行います。最優秀賞受賞者は、学会を別日程で開催する際に改めてご招待させていただければと思っております。

 本日は奨励賞の発表です。以下に受賞者のお名前と、その作品に対する審査員コメントを掲載させていただきます。掲載は受賞者のお名前順(五十音順)です。その他の賞は明日以降発表いたします。

 改めてこのコンテストに関わってくださった皆様に感謝申し上げます。





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■ 有元温香さん

 有元温香さん(U-19部門)は、英語の定期テストの特徴は「習ったことしか出ないということ」と「問題文を読まなくても解けるということ」であると考えています。定期テストは表面的なテストになってしまっているので、有元さんは、定期テストで良い点数がとれても「身についた」という感覚はあまり得られない、と語ります。

 そのように考える有元さんが提案するのは、国際理解教育をテスト化することです。例えば、「アフリカの子どもの出生率を上げるには何をすれば良いか」という議題に対して考えて英語で解答するわけです。高校生が「大学合格」から「国際理解」へ意識を転換していくということが必要だと有元さんは主張します。

 とても大胆な発想で審査員の注目を引いた作品でした。ただ有元さんは「このテストは、理解度や創造力、実践力などの点から点数化する」と述べていますが、こういった項目はなかなか点数化しにくいものかとも思われます。このあたりをもっと詳細に論じてくれていたら上位の賞も不可能ではなかったと思います。


■ 宇都陽鳳さん

 15歳の宇都陽鳳さんは、日本の英語テスト問題には、実用的な英語の使い分け方を問う問題がほとんどないことを指摘します。例えば「How aboutとWhat aboutの使い分け方の説明」や「喧嘩をしたときに『あなたが悪い。』と言いたいときは、“You are bad.”と“It’s your fault.”ではどちらの方が適当なのか」などを考えさせるような問題です。宇都さんは、Assistant Language Teacher(ALT=外国人指導助手)がこのようなニュアンスの違いを学習者に問うテストを提唱します。

 しかし同時にこういったテストの普及は困難だとも考えています。一つの理由は多くの英語教師自体の英語経験が浅すぎること、もう一つの理由はALTがまだまだ日本の英語教育界で十分に活躍できていないことです。

 耳の痛い指摘です。英語教育関係者の中には、この二つの理由に対して反論をしたくなる者もいるでしょうが、日本の英語教育界全体を見ると、このように断じられても仕方がないことは英語教育関係者は素直に認めるべきでしょう。具体的な提案と率直な指摘を審査員は高く評価しました。



■ 垣内田杏珠さん

 高校3年生の垣内田杏珠さんは、テストの形式が学習全体に与える影響の大きさを踏まえた上で、二つのテスト問題を提案します。一つは、日常会話で頻繁に使用し、かつ日本独特の感性に基づく言葉、例えば、「こだわり」「初心」「もてなし」「つまらないもの」といった言葉をシンプルな英語で表すテストです。これらのことばは、日本語では理解しきちんと使い分けることができるものの、いざ英語で表現しようとすると相当に考えなければなりません。こういったことばを英語で表現するテストは、英語運用能力の向上につながるだろうと垣内田さんは考えます。

 もう一つは、多様な英文をSVO(主語 + 動詞 + 目的語)の三語で表現するテストです。これも一つ目のテスト同様、物事の本質を瞬時に掴み、それを簡潔に表現する能力が問われるものです。こういった暗記再生とはまったく異なる思考力と表現力を同時に鍛えるテストを学校教育に組み込むことが重要と垣内田さんは主張します。

 たしかに、授業の中にも入れられそうな活動です。もっと多くの英語教師がこのような発想をもってほしいと思わせる作品でした。


■ 土井孝太さん

 高校3年生の土井孝太さんは、英語力においては暗記再生能力よりも、「対話力」と「対応力」が重要であると述べます。土井さんは、自身の高校で受けている「長文の内容から社会問題を考え、自分の意見を英作文したり、内容に賛否したりと、徹底して思考力を伴うテストの問題」こそはそういった力を育んでいると考えています。土井さんの高校では文法問題にしても「場面設定の中で適切な使用を選択する問題や、状況に応じた文法を用いて自己表現を行うなど、暗記では到底敵わない内容」であると述べます。そしてこういった問題を解き終えた後は、「充実感や知的で心地よい疲労を感じ、また、テストを通して新たな教養を得ることができた」と述懐しています。

 審査員も、「どんなテストだろう」と好奇心をそそられました。「いい英語教育を受けているなぁ」とも思いました。それだけに、もう少し具体的に土井さんが受けているテスト問題についてもう少し具体的な記述があれば、読者にもヒントが与えられるのにと思わざるを得ませんでした。また、パラグラフ・ライティングの原則にしたがって、「一つのパラグラフには一つの主張(だけ)」を徹底するともっと説得力のある小論文になったのにとも思います。今後に期待したいと思います。


■ 丸山知沙さん

 大学生の丸山知沙さんは昨年度に続いての受賞です。丸山さんの素晴らしさはその文章表現の鋭さです。冒頭段落を引用します。「学校現場で行われているテストは、生徒たちの人格を否定するテストばかりだ。テストの点数が良いから優秀な子。逆にテストの点数が悪いと劣等生。テストの点数だけで生徒たちの人格を決めがちな色眼鏡をかけた教師たち。テストとは、生徒たちがどれだけ勉強に取り組めたのかを判断するためのものなのに、いつの間にかテストの点数で生徒の人格を判断するものになっている。テストの点数がその子の価値の評価になっている。それが本来のテストの姿なのか、私は疑問である」。問題を告発するためにはこのような文体も有効なのかもしれません。

 丸山さんは論を進める過程ででも、「他人からの評価ばかりを気にしていたら自分の心が死んでしまう。「他人の評価を気にする」とは、他人にばかり目を向け、本来の自分自身とは向き合わない行為だからである」といった印象あることばを紡ぎ出し、最後には、子どもに「自分で考え、答えを導き出すという行為が大切であるということこそが真の教師の役割であると論を結んでいます。

 読んでいて「ぐっ」とくる小論文でした。丸山さんの英語のテストについての具体的な考えが書かれていたらもっと説得力がましたのではないかと思います。


■ 森太紀さん

 18歳の森太紀さんの提案は大胆です。スピーキングやリスニングのテストに、近年開発が進んでいるヴァーチャル・リアリティの技術を利用するというものです。「そんなの無理、無理」という声が聞こえてきそうです。たしかにこれを全国一斉にやることは現時点では非現実的でしょう。しかし、この技術はゲームや医療訓練の分野などで現在既に使われています。未来を考えると、このくらい大胆に発想することは重要なのではないでしょうか。

 しかし森さんの提案はたんに大胆なだけではありません。森さんは、現状のリスニング試験が聴覚のみに頼っているという点で実は非常に不自然であることを指摘しています。現実世界の中のリスニングは、視覚情報も活かしながら行うものです。また、現在のリスニング試験のように一方向的に情報が与えられるだけのものでもありません。私たちは少しの情報を得ると、それを手がかりに反応し、その反応からさらに相手から情報が与えられるというのが現実の言語使用です。その点、ヴァーチャル・リアリティの技術でしたら、全方位撮影の動画を使って、あたかも実際に相手と対応しているような形でリスニングとスピーキングの両方の力を評価することができます。森さんの提案は、そこまで考えた上でのものです。

 このように本質をついた大胆な発想ができる森さんの将来に期待します。


■ 𠮷岡和登さん

 高校3年生の𠮷岡和登さんは、今日行われているリスニングとスピーキングのテストは、どちらも一方的でまともなディスコースになっていないと指摘します。言うまでもなく、コミュニケーションは、意思を一方的に伝えることではなく、相互が意思疎通を図り合うことです。したがって、ただ「聞く」やただ質問に応答し「話す」だけで終わってしまってはいけないと𠮷岡さんは説きます。

 しかし、多くの英語教育関係者は「客観的」な採点を求めるあまり、上記のような定型的なテストをやりがちです。それに対して𠮷岡さんは、試験官の質問にテスト受験者が答えて一つの質問が終わるのではなく、そのあとに試験官が簡単な質問を二、三回行うことによって、テスト受験者の思考力、対応力や柔軟性を測ることができると主張します。

 とても大切な指摘です。これからスピーキングのテストがどんどん普及するにつれ、この𠮷岡さんの指摘の重要性はますます高まるでしょう。テスト対策を徹底することで、思考力・対応力・柔軟性を育てる機会が失われてしまうという本末転倒が生じないように英語教育関係者は注意する必要があります。𠮷岡さん、大切な指摘をありがとうございました。

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 奨励賞は以上の7名です。皆さんから頂いたご意見を、これからの英語教育改善につなげたいと思います。すばらしい作品をお送りいただきありがとうございました。



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