以下は、卒論・修論・博論を書く学生に行う「研究倫理教育講習」の一環で、ある学生さんが書いたレポートの一部です。研究倫理に関する意識を高めるため、その学生さんの同意を得た上で、ここに掲載します。
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『科学の健全な発展のために』
「セクションⅣ 研究成果を発表する」
我々研究者の持つ学問・研究の自由は、社会から付託されているものであり、その意味では研究者は自身の興味関心によって研究を行っていくにしても、そのあり方や成果、倫理的配慮について適切に判断を行うことが不可欠である。
「セクションⅣ 研究成果を発表する」では、オーサーシップ、出版、引用に関わるルールが紹介されている。これらのルールは、もしも認識していなければ、知らずに犯してしまうようなものが多い。例えばオーサーシップに関しては、オーサーとしての資格がない者にオーサーシップを与えてしまうギフト・オーサーシップ、出版に関しては一つの研究を複数の少研究に分割して出版するサラミ出版などである。
研究倫理に関わる様々なルールに違反することは、知らなかった・そのようなつもりはなかった、という言葉で済ますことのできる問題ではない。研究者一人の認識不足や悪意が、その研究者が属する研究者共同体の信用を損なう恐れがあることを十分に確認しておきたい。
また、オーサーシップや出版に関して本書でも懸念されているのは、教授と大学院生の力関係によって生じる問題である。研究倫理に関する認識不足の教授が、大学院生の論文投稿の際にサブ・オーサーとして掲載されることを当たり前のように求めることもあるかもしれない。
確かに、本書でも紹介されている、論文の著者として掲載される4つの条件のうち「研究の構想・デザインや,データの取得・分析・解釈に実質的に寄与していること」、「論文の草稿執筆や重要な専門的内容について重要な校閲を行っていること」、「出版原稿の最終版を承認していること」の三つに関しては、長期間に渡って院生を指導している教授であれば、満たしていると捉えることができるのかもしれない。
しかし、やはり研究者としての主体が大学院生にあり、教授は共同研究者ではなく単なる助言者に過ぎないという前提で行われた研究ならば、ここでサブ・オーサーの権限を教授に与えるのは誤りである。少なくとも4つの条件のうちの一つである「論文の任意の箇所の正確性や誠実さについて疑義が指摘された際,調査が適正に行われ疑義が解決されることを保証するため,研究のあらゆる側面について説明できることに同意していること」が満たされないかぎりは著者として名前をあげてはならないことが『科学の健全な発展のために』が定めていることである。
研究倫理に関する規定はすべての研究者が熟知し厳守すべきものではあるが、研究者間の力関係を前提として、犯さざるを得なかった違反もあるはずである。若手研究者には、厳格なルールの周知を行っていくのみではなく、上記のような力関係を前提とした研究倫理違反に関わった際に、誰に・どのように助けを求めることができるのか、そうした相談ができる諸機関についての周知も行っていくべきだと考えた。
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