2018/07/19

優秀賞(U-19部門とU-29部門)と審査員特別賞の発表(第二回英語教育小論文コンテスト)



第二回英語教育小論文コンテスト(「10代・20代が考える英語テストのあり方」)について昨日の奨励賞発表に引き続き、本日は優秀賞(U-19部門とU-29部門)と審査員特別賞の発表をいたします。

以下に、受賞者のお名前と受賞作品に対する審査員のコメント、そして作品の一部を抜粋して掲載します(抜粋の際には、原文にあった注釈番号などは取り除いております)。

受賞者の皆様には後日、賞状と賞品(図書カード)をお送りいたします。

応募してくださった皆様に改めて感謝いたします。


追記(2018/07/20)
上記ポスターにおいて佐藤さんのお名前を間違って掲載しておりました。
お詫びして訂正します。



*****

U-19優秀賞
佐藤綾香さん


審査員コメント
 大学入試にも活用が議論されている「外部試験」について,スピーキング能力が含まれることへの意義を認めながらも,その課題を,経済面,地理面,情報面から論じ,国として何らかの施策を打つべきであることを訴えた論文です。高校生として,自身の目前のことでなく,より広い視野から現状を捉え,それに対して具体的な改善策を提案することで,「教育の機会均等」という守るべき根本を改めて考えさえてくれた良論文であり,U-19優秀賞に値すると判断しました。

作品からの抜粋 
私は、外部試験においての三つの問題点に直面していることに気づきました。それは、家庭環境や住んでいる場所、情報網の不足によって、有利・不利な面があるということです。
 一つ目は、経済面です。トーフルなどの外部試験は受験料が高く、受けることすら困難な人もいるということです。
(中略)
二つ目には地理面での問題があります。外部試験の多くの試験は県庁所在地等で行われるため、田舎に住んでいる私のような人は距離があって行くことが大変であるということです。私の住んでいる地域は市内から約百キロメートル離れていて、行くだけでさえ二時間ほどかかり、それに加え、もし電車で行くこととなれば往復三千円程かかります。
(中略)
三つ目には情報面を挙げたいと思います。大きな問題点として、まずこのような外部試験があることを知らない人が多いと思います。実際、私もトーフルといった名前は聞いたことはあったものの、英語の試験であることも知らず、実用英語技能検定以外に英語の試験があることも知りませんでした。色々なことを調べていくうちに様々な試験があることを知り、もっと早く知っておくべきだったなと思いました。
(中略)
このままの状態を続けていくと、お金に余裕がある人たちだけが伸びてゆき、条件が整っていない環境にない人は育っていくはずだった能力さえも失っていくような気がします。




U-29優秀賞
日浅彩子さん


審査員コメント
 本稿は,著者の英語教師としての経験・体験をもとに,昨今の英語教育改革,入試改革について論じ,特にスピーキングテスト導入について警鐘をならした論文です。まず,Literacy,Oracyの概念を紹介しながら,スピーキング能力が非常に複雑で言語外の要素にも大きく影響をされるものであると指摘しています。その上で著者の論は,これまでの入試をそのまま容認するという訳ではないものの,この複雑なスピーキング能力について十分な議論を行わないまま,そのテストを入試等に導入することで起こる不安定な波及効果に懸念を示しています。現役英語教師としての立場から現在の入試へのスピーキング能力測定導入に対して,我々に再考を促す優れた論文であり,U-29優秀賞に値すると判断しました。

作品からの抜粋
 英語外部試験に関して、成績提供システムに参入したものを見ても、それぞれの方向性が異なっており「四技能型であれば何でもよい」という風潮が否めない。特に大きく問題であるのは、録音式と対面式が混在しているということである。成績提供システムが基準としているCEFRでは、モノローグとダイアログの能力を別のものとしている。スピーチなど個人で完結するものと、インタビューなど相手とのやり取りの中でのスピーキング能力を分けているのである。このような点に関する議論も全く十分ではない。
(中略)
 大学入試改革は、コミュニカティブな能力を育成する英語教育を実践したい、と願う教員にとっては、その熱意を後押しするものであることは間違いない。しかし実際のところ、その波及効果は有意義なものとは言えず場当たり的な対応が横行しているように感じる。また実施をする中での問題点も山積みである。受験料負担など、家庭の経済的な事情によって受験機会が失われる可能性が大いにあることや、受験の機会に関しては地域差があることも問題だ。地方では、面接会場や面接官の確保そのものが困難であるようだ。その場所まで受験をしに行く受験生の費用面・体力面の負担もある。またoracyが場面に依存した能力である以上、言語外の能力が問われてしまうことに配慮することが不可欠である。場面緘黙症や発達障害、心身症などに起因するコミュニケーションが苦手な生徒に対する合理的な配慮というのはどこまで行われるのか。
 このように制度が十分整わない中、全面的に推し進めていくことは早急である。本論ではスピーキング能力について述べたが、「四技能型」と十把一絡げにしてしまうのではなく、「四技能型によって何を問うているのか」という試験の本質に対する議論が必要とされる。


審査員特別賞
出口確さん  

審査員コメント
 出口さんは昨年のU-29優秀賞に続く2年連続の受賞となりました。問題の所在を明らかにした上で、その問題をどのように解決すればよいかを文献等に基づきながら手堅く論じており、論文としての体裁は今回投稿された論文中でも秀でたものがあり、高い評価に値すると判断しました。ただ、今年の出口論文の真新しさは「単語テストの波及効果」への言及に留まっており、基本的には今年の主張も昨年のものと大きく変わるものではないと考え、審査員特別賞に留めることに致しました。

作品からの抜粋
 単語帳による語彙の暗記や、この形式の単語テストは、これまで多くの弊害が指摘されてきたが、依然として広く行われている。単語帳の暗記による単語テストには、なぜこれほど「人気」があるのだろうか。一つは、文法規則を学べば、あとは単語を当てはめると意味はわかる、あるいは文章は作れる、という考え方が暗黙裡にあることが考えられる。いま一つは、語彙は、英文を読み聴く中で出会って身につけるのが最善ではあるが、その方法で十分な時間がないため、単語帳を利用して効率よく学習するべきだ、という考え方によると考えられる。そしてもう一つは、指導者自身が、かつて単語テストによって語彙を身につけたと考え、これが有効だと信じているからだとも指摘されている。
指導者は、それぞれについてよく考え直してみるべきである。語彙の習得と努力が語学学習には不可欠だということは正しい。しかし、それがそのまま「丸暗記が必要」「訳語のテストが必要」ということにはならない。両者の必要性は誰にも否定できないし、口にするのは容易である。それ故に、訳語の丸暗記・テストの強制という、指導者の不作為の“隠れ蓑”となってはいないだろうか。また、指導者の語彙習得にとって、単語帳の暗記や単語テストは本当に有効だったのだろうか。単語帳の暗記により習得したと思える語彙は、実際には、単語帳以外の場で、運用に際して繰り返し接触した結果、定着したものなのではないか。指導者は、自らの指導法や考え方が正しいか、どのような学習者にたいして如何なる場面で適切かを、まずは“内省”し、検証することが求められる。
 一方、学習者自身が、語彙習得の重要性や、その方法について、正しく認識し知ることも必要であると考える。語彙習得は、一朝一夕にはなしえず、単語帳による訳語の暗記では不十分であることを学習者が明示的に知っておいたほうがよいだろう。これらを総じて、語彙学習に関する学習者の“方略”と呼びたい。(中略)
 「オール・イングリッシュ」や「アクティブ・ラーニング」という言葉の、英語教育における「流行」は、授業や指導法、学習法に何らかの影響を及ぼしたとしても、単語帳の丸暗記の強制や、単語帳に基づいて訳語を問う単語テストの実施を防ぐ効果はない。寧ろ、このような問題は、「流行」の中にあって着目されにくく、残存してしまうことも考えられる。学習者の学生時代の貴重な時間を浪費することがあってはならない。

最優秀賞は明日発表の予定です。作品の全文も掲載します。どうぞお楽しみに。






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